特集その2は、真面目な牛の技術ネタを持ってきたなり。
私の師匠でもある牧原さんからは、ディープな技術なり知識を日々教えてもらってるなり。
牛に留まらず、人間的・精神的な部分でも多くを学んだなりね。
この新聞では、色んな人を巻き込んでインタビューしてるなりが
その際必ずお願いするのが「面白いことを1つ言って」。
でも今回は笑い無しの真面目トークなり。
【特集 - 明鏡止水(その2)】
亨 牧原(とおる まきはら)の少しはマジメな話
牛舎班リーダーでお馴染み、牧原亨さんは幼少の頃から実家で酪農を学び、「ラーメンからミサイル」ならぬ「優良仔牛の選別法から牛糞の乾かし方」まで何でも知ってる酪農の申し子。そんな頼れる兄貴分に、今回はやや真面目な「牛の角と群れの習性」をテーマに語って貰いたいと思います。
「本来、牛には角(つの)がある」
インタビュアー(以下 イ) 原牛からの進化過程で、解剖学的には前頭骨角突起を備えることは肉食獣からの捕食を逃れる重要な武器と言えます。突起の上に血管軟部組織と角質の鞘が覆う構造で、生後は突起が埋もれた状態で、成長に伴い急速に発達し、成牛の立派な角は一人前との印象を受けます。実際「現代の乳牛には角が無い」と思っている方が少なくないようですが、牛舎飼いでは突起が成長しないよう通常は焼き切ってしまうんですね?
牧原(以下 牧) そのとおりです。以前は生後6ヶ月~1歳頃の、角がある程度育ってきた仔牛を除角、いわゆる焼きごてで焼いちゃって細胞を壊死させ成長を止める方法だった。でも仔牛といえど物凄い暴れるし1歳を超えると作業してるこっちが恐怖を感じる、それに除角した際に血が大量に吹き出しジェイソンみたいに血飛沫を浴びながらってこともあった。今はそれが「無血除角」と言って、生後1週間以内の牛の角に10秒ほど強く押し当てると接触点がすごい高熱を持ってポロっと取れる機械があり、徐々にそっちにシフトしつつある。だから尚更、皆さんはどこの牧場に行っても「角」っていう存在を認識しないと思う。1歳経ってから除角すると角の残像を感じるけど、今は無角牛と勘違いする状態で成長していくと。それが「現代の酪農」だよね。
イ 中洞牛の多くは立派な角があり、夕陽に映るそのシルエットは美しいものです。護身だけでなく、放牧の群集行動内の強弱を形成する攻撃用途としても重要な意味を持ちます。餌を独占しようと隣の牛に角を突き立てる積極的な牛もよく見かけます。角の形(フォルム)の特徴や大きさの違いで、強弱に影響ありますか?
牧 この前死んだボスなんかは、頭を下げた時にちょうど相手に向かっている角、まさに相手を突くためのような角を有して相当強かったと思うよね。牛の一番強い額で(人間で言えば)頭突きをするために頭を下げる訳だ。相手に角が鋭く向いてると、より相手を怖がらせることが出来る。ボスはその最たるもの、もちろん性格的なものも当然あるけど19歳の高齢になっても派閥のボスとして君臨できたのかなと。
イ 少し前に、牛の角の「年輪」で出産回数が判るという興味深い話をしていましたね?
牧 これはホルスタインじゃなく黒毛和牛の世界の話なんだけど、お産をすると角に年輪じゃないけど輪っかみたいなのができて、その本数を見ると何産したか判ると。更に年輪に種類があって、例えばいつ頃病気をしたとかまで判るらしい。本当に判る人は判るみたいで、これ何産でしょ?って言い当てられたことはあるね。だから昔の人の言ってることっていうのはあながち外れてない、面白いなっとは思うよね。
*会話途中ですが校正の関係で、つづきは次号でお届けします。